「悪いな。髪が乱れてる」


苦笑して、あたしの髪をささっと直すしぐさに、心臓が早鐘を打つ。


「行くぞ」


車のキーをひらひらと振る。


「……え?」

「車。乗って行けよ」

「え、でも……」

「親父の乗ってた古いクルマだけどな。

いいから、乗れ」

「……」


有無を言わせぬ口調に、思わずうなずいた。


(一緒に車に乗って会社に着くところを見られたくない、なんて言ってたのに)