「兄ちゃんは優しいから」
「あーあー女は冷たいねぇ。別にいいよお父さん帰ってきたらお父さんに愚痴聞いてもらうから」
「だから父さん最近脱毛が激しいんじゃないの?」
「…かなぁ?あ、そんなことよりアンタ、ちょっとお兄ちゃんの部屋に麦茶2つ持っていってあげて」
「なんで?」
「お友達来てるのよ」
「んー…わかった」
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。
「そういえばさっき違う声したけど誰?」
「早苗」
「あぁ、さっちゃん。幼稚園からの付き合いだからもう10年くらいねぇ」
「保育園だよ」
「どっちも同じじゃない」
「違うし。そんじゃ上行くね」
「はいはい…待って!さっちゃんに晩御飯食べていくか伝えておいて」
「わかった」
またソファに寝転がって動かなくなった。一眠りするらしい。
おぼんに4つコップを乗せて階段をのぼる。腕がぷるぷるする…
バランス感覚無いからこういうの駄目なんだよなぁ。すでに少し溢したし。
兄の部屋は階段をのぼったらすぐにあるからそんなに苦労はしないけど、なんだかなぁ…さっき気まずい思いしたし、なによりホモ…。
「いや、悩んでてもだめだよね!兄ちゃんは兄ちゃんだし!」
兄の部屋の前で大きく深呼吸を繰り返す。決心して膝でドアを2回ノックした。
「はい、どうぞ」
「おじゃまするよー」
目を合わせずに部屋に入る。男の人がテレビゲームのコントローラを持ったまま私に会釈する。
「はじめまして」
「…はじめまして」
「麻紗、紹介するよ。友達の守彦」
「拓の妹さんだっけ?よろしくね」
「あ、はい」
「手ぇ出すなよ」
「出さねぇよ」
あれ…兄ちゃん普通だ…。
…そうだ!もしかしたらあのホモ本は興味本意だったってこともあるし!怖いもの見たさってあるもんね!
私も怖いもの見たさでご近所の沢村さん家にピンポンダッシュ仕掛けたこと何回もあるし!
つまりそういうことだよね!
なぁーんだ一件落着じゃん!
