約16年間の人生の中でこんなにも走ることがあっただろうか。いや、ない。
死ぬ気で走った結果、数学の補習は間に合わなかったものの英語は始まる前に席に着くことが出来た。
「数学、持ってきた意味…」
「いやぁ~忘れてるんだろうなぁとは思ってたけどまさか本当に忘れてるとはねぇ」
「なんで数学始まる前にメールしてくれないんですか早苗さん…」
「まっつん数学苦手でしょ?さなぴょんはは気を遣ってあげたんだよ?感謝していいんだよ?」
「腹立つわこんにゃろう。そのしゃべり方やめろ」
「あ、そうだまっつん、梶田から伝言。まっつんが来たら職員室に来いってさ」
「えー!やだ!」
「いや行けよ。遅刻したまっつんが悪いんだから」
「…ついてきてくれる?」
「5000円」
「高い!」
手を出してくる早苗の手を叩いて振り落とす。ニヤニヤしながらまた手をあげて今度は目潰ししてこようとするから折れないまでに指を痛め付けた。
「…あれ?ユッチは?」
「ユッチ休むって」
「あの女…」
ユッチというのはクラスの中で一番髪色が明るいと称されている見た目不良の根暗女である。
先生たちに注意されないところを見るとなにか裏事情を掴んでいるのだろうと睨んでいる。