「おかえり…」

「あ、うん、ただいま…」


目が、合わせられない。兄も気まずいのか明らかに私が悪いのにドアを開けたり閉めたりして入ろうかどうか悩んでいる。

私はドアが閉まっている隙にベッドの下へホモ本をさっと戻した。

私は江戸一番のくの一とか妄想して悦に浸ってる場合じゃなかった…。

「…入ってもいい?」

「あ、どうぞ…ってかここ兄ちゃんの部屋じゃ~ん!へんなのー!あははは、は…はは…」

「……」

自分のカラ笑いが虚しい。死にたいと思ったのは何年ぶりだろう。
兄はなにも言わずに学習イスに座った。イスの軋む音が私を責めているようで胸が痛くなった。

「……見た?」

「…え?」

「だから、その…ば、薔薇族…」

「み、見てない!全然見てない!あの、兄ちゃん漫画いっぱい持ってるから何か面白そうなのあるかなって、それだけ!」

「そ、そっか。好きなの持っていっていいよ」

「うん!テキトウに借りてくね!」

本棚から5冊ほど抜き取って愛想笑いを浮かべたまま部屋を後にする。

私は、大変なことをしてしまった…。