面会開始時間である10時ピッタリにやってきた私だけど、さすがに盆子原さんは仕事の関係で、もっと早くに来ていたみたい。


ティッシュや洗面具のような日用品だけじゃなく、暇つぶしの為だろう漫画雑誌みたいな物も台の上に用意されていた。



「具合、どう?
どこか痛いかな」



「んー?せのおさんは心配性だなぁ。
やっぱぶつけただけあって、ちょっと頭はズキズキするけどね。後は全然平気だよ」



「そう…」



話し方もその笑顔も、今までの慎吾くんと全く変わらない。


だけど慎吾くんにとって私は、明らかに『ひな』から『せのおさん』に変わっているの。



「…………………っ」



…どうして私の事だけ忘れちゃったの?


あんなにたくさん笑ったりしたじゃない!

私の作ったご飯、美味しく食べてくれたじゃない!


「好きだよ、ひな」って、言ってくれたじゃない…っ!!




「……………っ…」



「どーしたの、せのおさん?」



ギュッと締め付ける胸が苦しくて、噛みしめる唇が小さく震えてきた。



…ダメっ
泣いちゃいそう…っ