「…あぁ、もうこんな時間か。
お腹、空いたでしょう。
この近くにファミレスがあるので、そこで何か食べて今日は帰りましょうか」



「…そうですね…」



さすがにこんな事になっては、今からゆっくりデートという雰囲気にはならない。



私は盆子原さんの言うファミレスへと向かい、ちょっと遅れたランチをするといつもの場所まで送ってもらった。




「…すみませんでした。また連絡しますので、改めて今度やり直しましょう」



「…はい。
あの、別に気にしないで下さいね」



「いえ。
あ、そうだ。あの…」



さすがに今はまだ明るい昼間だもの。
いつもの仕事の帰りのように外も暗くないので、別れ際だからと言って恋人らしいあいさつはしない。


だけど盆子原さんは、持っていた荷物から何か小さな包みを取り出して私に差し出した。



「こんなタイミングで渡すものではないんですが…」



「え?」



包みを開いた中には小さな小箱のようなものが入っていて、もしやと思いつつも中を開けて見ると、「あ…」と声を漏らしてしまった。


石なんかは付いていないのだけど鈍く銀色に光る指輪が1つ。


つまり、これって…



「朝急いで買ったものだから大したものではないんです。
本物はまた改めてご用意します。今は…とりあえず形だけでもと思いまして」



「…ありがとうございます」



私は盆子原さんからの指輪をギュッと胸に抱くと、それだけを言った。


だんだんと近付いていく、盆子原さんとの未来を感じながら…。