盆子原さんの注文してくれたアイスコーヒーがテーブルに届き、私は「いただきます」を言ってストローを口に付けた。




「慎吾は高校の1年生で、つい先月の末に16になったばかりなんですよ」



「わぁ…そうなんですか」



そう相づちを打ちながら、わざと盆子原さんと視線を合わせないように、カラカラと氷の入ったグラスをストローで混ぜてみた。


慎吾くんが16歳になった事なんて、もちろん知ってる。

1日遅れになったけど、一緒にケーキも食べたんだもんね…。




「誕生日だってのに、父親の僕は何もしてあげられなくて。
それでようやく取れた休みに、慣れない手料理を振る舞ってやったんですよ」



「あぁ。
きっと、慎…吾さんも喜ばれたでしょうね」



「あははっ
笑いながらハッキリ、下手くそって言われちゃいました。
でも、全部食べてくれましたよ」



「…あはっ」



盆子原さんの話を聞いて、その時の慎吾くんの顔が目に浮かんだ。


家庭に時間が割けない代わりにお金を多めに渡してるって言ってたけど、慎吾くんはお父さんの事をちゃんと想ってるいい子なんだよ。



「…ステキな息子さんなんですね」



「はい。何だかチャラチャラ頼りない風貌かもしれませんが、忙しい僕も助けられてます。
本物に良い、自慢の息子なんです」



「……」



嬉しそうに語る盆子原さんの顔を見て、だんだんと罪悪感に押しつぶされそうになった。


私はこのステキな家族に、亀裂を入れる存在になるのかもしれないのだから…。