いくら歩行者は近くにいないって言ったって、車は次から次と通っている。


でも車内から見られたところで、ほんの一瞬だし顔だって夜だからよく見えないだろう。


だけど、だからこそと言うべきか、むしろお構いなしと言うべきか。




「…妹尾さん」



「ぁ…はい…っ」



再び私の肩を掴んだイチゴバラさんが、ジッと至近距離から私を見つめた。



…わかる。
彼が何をしようとしているか。




「妹尾さん。
ずっと、ずっと僕があなたを守っていきます。
だから…ずっと、ずっと僕の側にいて下さい」



「………………っ」



ゆっくりと近付いてくる、イチゴバラさんの顔。


私は真剣に想いを伝えてくれる彼の言葉に返事できず、黙ったまま目を閉じた。



「…愛してます、妹尾さん」



「…ん…………」



そう放った言葉の後に感じた、重なった唇の感触。



初めて触れた唇と唇。
そんな、愛情表現。


ただ長く、静かに重ねられただけのものだったけど…



でもそれは私が初めて体験した、大人としてのキスだったの――――…。