ひな*恋

さっきまでとはちょっと雰囲気が変わり、何だかソワソワしたような態度になったそのお客さんに、私は首を傾げて言葉を待った。


金額、間違ったかな。
私、何かおかしな事した?





「…姉ちゃん、仕事頑張るよね。何時まで?」



「…ぇ…?」



「良かったら、その後カラオケとかどう。
俺、無料券持ってんだよ」



「……………っ」



え えぇーーーー!!?


そ それってナンパ!?

しかも、こんな中年のおっさんにーっ!




「あ……はは…っ」



なんて対応していいかわからず、とりあえず空笑いが口から漏れた。


もちろん行く気なんてサラサラないし、だからって常連のお客さんに冷たく断るのも………っ



「い 忙しくて、なかなか………っ」



精一杯のスマイルで返してみたけれど、多分きっとその笑顔はひきつっていると思う。


そうよ、私は忙しいの!
どうか諦めて下さいぃ!




「…あ そう。
じゃ、また今度ね。
ありがと」



「あ ありがとうございまー…す」



惣菜の包まれたレジ袋を軽く上に上げて見せながら帰って行ったその常連のおっさんの背を、私は遠い目をしながら見送っていた。


今の間にもう口の中はカラカラ。



だって、まさかこんな私にそんな声がかかるなんて、夢にも思わなかったもの!