秋の暮れの事。

 ショートカットの幼い少女が、ランドセルを揺らし、小さな道へと入って行った。

 何か新しい物に出会いたい、そんな好奇心故の寄り道。ほんの、些細な遠回りだ。

 小道を進むと、大きな石の塀があった。まるで苔でも生えている様に、石は緑色に変色している。古めかしい、和の雰囲気を好む少女は、それがお気に召した様だ。鼻歌でも歌い出しそうな、楽し気な表情で、軽くステップを踏む。

 そんな、見ていて微笑ましくなる様な、少女の鼻を、微かに、煙草の香りがくすぐった。少女が香りの元を探そうと、視線をさ迷わす、その瞬間、強く吹き上げた風。少女は思わず、目を瞑った。

 再び目を開けると、石の塀の上で、男が一人、煙管の煙を燻らせている。

 少女は、今まで人の気配など感じなかった。男は、突如としてそこに現れた、そう思えた。まるで幽霊か何かの様に。

 男は、深く煙を吐き出すと、目線は何処か空に投げたまま、少女に声を掛けた。

 「お嬢さん、迷子かな?」

 よく通る、少し高めの声。何故だか耳に馴染む。

 「・・・そこ、わざわざ梯子で上ったの?」

 少女は、男の少しからかいを含んだ問いを、さらりと聞き流し、ぼんやりと問う。

 男は、やっと少女を見、小さく笑った。

 「さてね?空でも飛んだのではないかい?」

 「・・・嘘」

 何と無く胡散臭い男である。少女はじとり、と男を観察した。男が掛けている眼鏡の、その奥を覗こうとするが、瞳や表情からは、本心が読み取れそうもない。

 しかしどうやら、幽霊ではない様だ。