最後にあなたと乾杯を


「ごめんね。まどろっこい言い方して。だってタケちゃん最近仕事仕事で構ってくれないんだもん。だからああ言えばちょっとは興味持ってくれるかなって。

でもびっくりした。
タケちゃん本気で怒るんだもん。離婚届って聞いてちょっと焦っちゃったよ」


妻は嬉しそうに目を細めた。


「でもよかった。ほんとのタケちゃん見えた気がしたから」


僕は脱力した。

それならそうと、はっきり言ってくれればいいのに。

けれど妻の本音を聞いて、仕事ばかりかまけていたことを反省する。

その日の夜、ノンアルコールのシャンパンを開けた。

ベランダから見える桜並木がライトアップされている。

僕と妻はグラスを交わした。


「家族二人はもう最後だね」