僕はベンチから静かに立ち上がった。


「ごめん」


 ナァ、と、不細工猫が鳴く。


 僕は不細工猫に背を向けた。


「僕に勇気がないばっかりに、君に言わせてしまって」


 ベンチの後ろに並ぶ立木に声を掛ける。


「顔を見て、改めて話をさせてほしい」


 そっと、ベンチの裏へ回る。


 大きな、猫みたいな眼と視線がぶつかった。


「君が猫の演技ができるなんて。いつの間に練習したの?」


 庄谷の顔がポッと赤く染まる。


「今度は、ふたりだけで映画でも行かない?」


 僕がそう伝えると、彼女はいつものようにフニャフニャと頬を緩めて笑った。





201301