夢見心地でいる場合じゃない。
再会を手放しで喜んでいる場合じゃない。
再会しても、そこから何かを始めるわけにはいかない。
陽平と未来の約束を交わした私は、今さらそれを自らの手で壊すことなんてできないのに。
宏之は、見ただろうか。
この薬指の指輪に気づいただろうか。
何を、思ったんだろう。
私が結婚していると解釈してしまったんだろうか。
「お待たせ」
明朗な声が聞こえて、顔を上げる。
ビールグラスをふたつ手にした宏之が、その片方を差しだしてくる。
左手を出しかけて、すぐに右手に替える。
もうばれているのかもしれないけど、これ以上、指輪を宏之に見てほしくない。
「じゃあ、乾杯するか」
「何に?」
「そりゃ、俺らの再会に、でしょ」
明るく笑う宏之につられて笑う。
宏之は私との再会を祝福してくれる。
それが、何よりも嬉しい。
乾杯、と声が重なり、グラスを合わせる。
すぐにグラスに口をつける。
宏之がごくごくと喉を鳴らして飲むのを横目で見やる。
高校生の頃は、これがお茶だったのに。
豪快な飲みっぷりは、あの頃と同じだけど。
「やっぱうまい。おまえと飲むと、格別にうまいわ」
それって。
その言葉の真意は?
どういう意味?
違う違う。
心の中でかぶりを振る。
何を勘ぐっているんだろう。
変な意味で言われたんじゃないのに。
何を今さら、思いあがっているんだろう。
だめだ、酔わなきゃ。
早く酔ってしまわなきゃ。
酔ってしまったら、たとえ何を口走っても、アルコールのせいにできるから。
今は理性で押さえつけて言えない感情も、酔狂発言ととらえてくれるから。
