ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-


「何?」

「や、俺と同いだから当たり前なんだけど、ビール飲める歳なんだよな」



感慨深げにしみじみと宏之が言う。

その言葉に、はっとなった。


高校生のままで別れた。

今も宏之と話している時は、高校時代にタイムスリップした感覚に陥っていた。

制服を着ていないのに。

自然と過去に引き戻されていっていた。

法律的に飲酒できるようになってから一度も会っていない私たちに、今までお酒を酌み交わした経験など皆無なのだ。



「ビール、とってくる」



宏之はにこりと笑いながらきびすを返し、飲料コーナーへと向かう。

その後ろ姿は、やっぱり変わっていない。

ドキドキと暴れだした心臓がうるさい。

あんなふうにふつうに話しかけてくるなんて思ってもいなかったし、ふつうに話せるとも思っていなかった。



最後の日。

見送った背中は、誰よりも遠くに見えたのに。

また近くにいるのが、信じられない。

夢想空間を漂っているようだ。



白いクロスがかけられた、近くのあいているテーブルに料理を盛った取り皿を置く。


宏之に早く戻ってきてほしい。

話したいことなら、たくさんある。

訊きたいことなら、たくさんある。

今まで会えなかった時間を、今すぐにでもゼロにしたい。


落ち着かないのを、それでもなんとか落ち着かせようと手を組んだその時。

右手の薬指が、何かに触れた気が、した。

左手に身につけているもの。




冷たい、金属製。


おそるおそる視線を向けてみる。


そのとたん、全身から血の気が引いていくように青ざめかけていくのがわかった。

心地いい夢から、一気に現実に連れ戻される。




そこにあるのは、プラチナの指輪だ。

婚約指輪だ。

陽平から受けとった。



天井の照明を反射して、添えられたダイヤがまぶしく光る。