「今、何してるの」
ローストビーフを数枚、取り皿に盛りつけた宏之が、トングを私に手渡しながら近況を訊ねてくる。
気になることなんだろう。
私も、宏之が今何しているのか、気になる。
10年がたつ。
10年も会っていなかった。
その間、どうしていたのかわからないぶん、離れていた距離を埋めたくて仕方がない。
「ちっちゃい会社で事務してるよ。デスクワークで座りっぱなし」
「そうなんだ」
「宏之は?」
「俺は営業だよ。朝から晩まで駆けずり回ってる」
「営業向いてそうだね」
宏之なら、持ち前の明るさとガッツで、誰の懐にもすぐに飛びこんでいけそうだ。
どんどん契約をとりつけているだろう。
取り皿にローストビーフを盛って、ほかを物色する。
だけどどの料理の前にも人がいて、よく見えない。
かろうじて視界にとらえたのが、えびの天ぷらのコーナーだ。
そういえば、宏之って。
「えび好きじゃなかった?」
「すでにゲット済み」
宏之の取り皿を見れば、そこにえびの天ぷらが載っている。
思わず、顔がほころんでいく。
「好きなもの、変わらないね」
「そりゃ、簡単には変わんないよ」
「じゃあ私は、トマトリゾットもらいに行こっかな」
「それなら、あっち」
指さされただけなので、てっきりひとりで行ってこいという意味なのかと思いきや、一緒についてきてくれた。
別の取り皿にトマトリゾットを盛りつける。
「あとは飲み物だな」
「でも、私は両手に持ってるから、これ以上は持てないよ」
「なら、俺がもらってきてあげる。何がいい?」
「ビールでいいよ」
即答した私に、え、とほうけたような眼差しを宏之が向ける。
だけど、すぐに思い直したのか、そっか、と小さくつぶやく。
