「先生見ました?今朝のニュース」
稽古中、三十後半くらいの主婦がそう矢野に尋ねてきた。

「いえ。見ていませんが・・・」
「そうなんですか。いや、先生すごいですよ!今やメディアは先生で引っ張りだこですもん!作品展の反響くいいらしですよ!」
「そうなんですか」

「今や、あの轟先生より有名ですからね」
「そんなことないです」
そう言うと矢野は微笑んだ。



稽古が終わると、矢野は教室で一人雑誌に目を通した。
生徒の一人が置いていった物だった。

「・・・天才書道家に降り注ぐ悲劇。さすが、面白く書きますね。三木君も読んでく・・・」
持ち上げた腕を力なく下ろした。

ここまで来ると笑えてくる。
矢野は手に持った雑誌を片手で握りつぶした。

「けれど、もうすぐだ」
その時、呼び鈴の音が玄関から聞こえた。
出ると宅配便だった。
差出人は轟一機。

準備は整った。