腹部の傷は二週間程で塞がり、松葉杖付きだが、矢野は退院できるようになった。

教室の生徒に支えてもらいながら病院を出ると、途端にカメラのフラッシュを焚く光と大勢の人に囲まれた。

「矢野さん!退院おめでとうございます!」
「怪我の回復はいかがですか?」
無数のマイクが矢野に向けられる。

「書道家殺人事件。犯人は矢野さんの教室の生徒さんということでしたが、どんなお気持ちですか?」
表情が強張るのが自分でも分かった。

違う。
彼ではない。
本当は自分なんだ。

そう叫びたかったが、半分の自分がそれを止めた。
まだその時ではない。
あと一人。轟が残っている。
もう少しで終わるんだ。

矢野は車に乗り込むと、静かに手を合わせた。

・・・もう少しだけ待ってください。