「矢野尋です」
落ち着いた声が野田を制した。

「こいつは矢野です」
辰郎がゆっくりと野田の前に立ち、目を合わせる。

「矢野辰郎さんですか?」
「はい。尋の父親です」
そう言うと、柔和な笑みを見せた。
「どうもはじめまして。警視庁捜査一課の野田英介です。失礼ですが、尋さんとの血縁関係は?」
「ないです」
「血の繋がりはないと分かっていながら、戸籍は親子ですか?」
「はい」
平然とした態度で辰郎は答える。

「どういう事かお分かりですよね?」
「だって、私の息子ですから」
は?と野田が顔を歪めた。
言っていることが矛盾しているのだから仕方がない。
「ご自分が何を言っているのか分かってますか?」
「はい。確かに血の繋がりはありません。けれど、尋は間違いなく私の息子です」

何か言おうとする野田に被せる。
「私の大事な息子を苦しめるようなら、例えそれが刑事さんでも許しません。今日のところはお引き取りください」
「しかし・・・」
「お引取りください」

もう一度、はっきりと告げた。

「・・・そうですね。今日のところは、ここで退散しましょう」

これ以上は無理だと踏んだ野田は、軽く頭を下げると病室を出て行った。