目を覚ますと、見慣れない天井があった。
少し視線をずらすと、隣に点滴を見つけて、ここが病院だと分かった。

「起きたか」
反対側から椅子を引く音と共に聞きなれた声が聞こえた。
「無理に起きるな。だいぶ血が出たらしいぞ」
白髪の男が寝ている矢野の肩に手を置いた。
「・・・父さん」

松雪こと、矢野辰郎が元々ある皴を更に深くして笑った。

「驚いたぞ。若い姉ちゃんから電話があったと思ったら、お前が撃たれたって言うもんだから」
「ごめん・・・・」
「ま。生きているからいいけどな」

辰郎に答えるように苦笑いをした矢野だったが、次の瞬間には勢いよく起き上がろうとした。

「いっ・・・!」
「おい。起きるなと言っただろ」
背中を支えようと伸ばした腕を掴んだ。

「三木君は・・・彼はどこにいます?」
辰郎の眉に皴が寄った。

「もしかして警察ですか?だったら、誤解を解かないと・・・」
ベッドから降りようとする矢野を制するように、手を握った。
「尋」
「・・・・・」
「三木冬樹は亡くなりました」
二人の沈黙を破るように、淡々と、矢野が聞きたくなかった言葉が告げられた。

入り口に野田が立っていた。
いつもの品のない笑みを浮かべると、左足を庇うように松葉杖をついて中へと入ってきた。



「・・・あなたが」
「そう。俺が連続書道家殺人事件の犯人を殺しました」
怪我の痛みも忘れて、矢野は野田に掴みかかろうとした。
しかし、それは辰郎によって阻まれた。
それでも、矢野の目は野田を捕らえて放さない。

「彼は犯人ではありません」
「犯人にしているのはあなたです」
野田は矢野の瞳が揺れるのを見逃さなかった。
そして、愉快だとでも言うように笑った。

「三木の無実を証明したいのなら、真犯人が見つからないと。・・・ねぇ。姫山尋さん」