「三木君!」
場内に響く悲鳴の中で矢野が三木の名前を叫んだ。

野田の隣で、三木が肩で呼吸をするのが見えた。
その手が震えていた。

「野田警部!」
客に紛れた野田の部下が数人、野田の名前を呼びながら駆け寄ろうとするが、部下の姿を確認した三木が刃物を振り回す為、野田のところへ行けない。

「三木さん!落ち着いてください!」
真里が三木の正面に立った。
「大丈夫ですから。ナイフを置いてください!」

そんな真里の声も、理性を無くした三木には伝わらない。
それどころか、刃先が真里へと向いた。

鋭い光が、真里へと一直線に。

「っ!」

刃物が深く刺さる鈍い音がした。三木の白い手が血に染まる。
顔を上げた八木は真里と目が合った。
だが、二人の距離は人一人分遠かった。
三木がその姿を認識したのと、その姿が崩れたのがほぼ同時だった。
「矢野先生!」

矢野の脇腹に刺さった刃物から留まることなく血が流れる。

「や・・・矢野せんせ・・い」
我に返った三木が、消え入りそうな声で矢野の名前を呼んだ。
「俺・・・なんて事を」
刺さった刃物を抜こうと震える手を矢野は止めた。
「先生・・・・」
「抜かっな・・・いで・・・・ください」
「でも!」
「抜いた・・・ら、三木君は・・・・死ぬっ、で・・・しょ?・・・・いけません」
「先生!」

力が抜けた矢野を三木が抱きしめようとした時だった。
耳を塞ぎたくなる音が一瞬した、次の瞬間。
三木が矢野の上に覆い被さっていた。

三木を肩越しに、腹を押さえた野田が見えた。
その手には拳銃が握られていた。

「み・・き、くん」
「せん・・せ。すいませ・・・ん」
打たれてもなお笑顔を作ろうとする三木に、はっとした。
「ま・・さか。わざと・・・」

矢野の問いに三木は微笑むと、その目を閉じた。

矢野が覚えているのはそこまでだった。