「個展開催おめでとう」
「ありがとうございます」
矢野が頭を下げると一斉にフラッシュが焚かれた。
「すごいな。カメラが至る所にある」
そう呟くと、右手を伸ばして矢野に握手を求めた。
「これからの書道を頼むぞ」

一瞬。
矢野の表情が硬くなったのを轟きは気が付かなかっただろう。
少し間があった後に矢野が右手を伸ばした。

「おやおや。これは豪華な組み合わせですな」
低く鼻が詰まったような声が、矢野の右手を止めた。
振り向くと、よく見知った男がいた。

「・・・・これは。刑事さん。また、会いましたね」
「そうですね」

野田の後ろに真里も居るのが見えた。
しかし、野田の出現に驚いているのは矢野と三木だけではなかった。
「・・・野田」
「轟先生。お久しぶりですね」
「あぁ・・・・」
さっきまでとはうって変わり、その顔に焦りが見え始めた。

「轟先生と野田さんはお知り合いですか?」
「そうなんですよ。だぶん、矢野先生が子供の頃からの付き合いですよ」
「仲がいいんですね」
「ええ」
「それで、何の用だ?」
会話に割って来たのは轟。

「あ。思い出した。そうそう、十三年前のことなんですけどね」
野田はわざとらしく手を叩くと、矢野のほうを向いた。

「矢野先生に聞いていただきたいお話がありまして」
「・・・・僕が?」

これに三木と轟、そして真里も驚いた。

「はい。矢野先生、前に仰いましたよね?姫山正は本当に自殺だったのか。と」
「はい・・・」
「あれから調べたんですよ。そしたら、面白いことが分かったんです」

回りくどいのは恐らく、轟の反応も楽しむためだろう。
楽しいと言わんばかりの品の無い笑みを浮かべて矢野に続けた。

「姫山さん」
「・・・・姫山さんがどうかされたのですか?」
「おや。そんな反応ですか?・・・おかしいなー。もうちょっと違ったのが欲しかったんだけどなー」

矢野は内心、ほっとした。
なんとか動揺を気づかれてはいない。
ただ、自分の後ろにいる三木は大丈夫だろうか。それが心配だった。

「どうしてです?」
「だって、これから推理ショーを始めるのに、無反応はいささか寂しいですから」
「推理・・・ですか?」
「はい。長江と水沢を殺したのは誰か。それを教えますよ」

野田は周りの反応を待たずに、その「推理ショー」をはじめた。