「先生。着きましたよ」
その声で目が覚めた。

「大丈夫ですか?なんか、うなされていたみたいですけど・・・」
運転席から三木が矢野を覗き込んでいた。
どうやら、車で移動中に寝てしまっていたらしい。

「大丈夫です。ちょっと眠かっただけですから」
「でも・・・」
心配そうに見てくる三木に微笑みかけた。
「・・・ちょっと中学生だった頃の夢を見たんです」
そう言うと、ドアを開けた。

車を降りて最初に見たものはお墓だった。
二人は近所の霊園に来た。

三木が車にロックを掛けたのを確認して歩き出した矢野は、『姫山』と文字が彫ってある墓の前に立った。
花を供えると手を合わせると、後ろの三木も続いて手を合わせる。

「皮肉ですね。ここに眠っているのは実は戸籍上なんの関わりも無い、血縁関係も無い三人なんですから」

そう言うと立ち上がって三木と向かい合わせになると、頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたのお兄さんを巻き込んでしまって」
「謝らないでくださいって」
矢野の左手を右手で掴む。

「先生は何も悪くないんです。兄はいつも通りに稽古に行ったんです」
「しかし、世間はお兄さんを僕だと思っている」
「それは野田が真相を隠したからです!轟の金欲しさに兄のことも、あなたのお母さんのことも世間から誤魔化してあの三人に罪を科さなかった!」

三木は一呼吸置いた。

「俺は先生に会えて嬉しかった。真実を取り戻そうとしている先生に、俺は全力で協力したいと思った」
両手で矢野の手を握ると、優しく笑いかけた。
「だから、先生は俺に謝るとこはないんです」

そう言うと、矢野は俯いた。
「あーあ。ただでさえ小さいのに、更に小さくなっていますよ」
「・・・・余計なお世話です」
三木は声を出して笑った。

「帰りましょうか。明日は先生の個展会場に行く日です」

矢野は頷くと、車に乗り込んだ。