その言葉は辰郎には聞こえなかったが、矢野の耳にははっきりと届いた。

轟は矢野から視線を外すと立ち上がった。
そこへ轟の名前を呼びながら男が近づいて来た。
「轟。ここにいたのか」
そう言いながら矢野と目が合う。そして、眉を顰めた。
「・・・姫山と同じ目」

辰郎がこちらを見ていないのを確認して轟が言う。
「水沢もそう思ったか」
「あの目は忘れたくても忘れられないからな。・・・あの忌々しい目は」
轟は鼻で笑った。
「長江が見たら叫ぶかな?」
「いや、あいつは自分の事しか気にしない奴だから気づかないかも」
「ハハ。嫌な性格だ」
「その性格に救われているのは私達だろ?」
「それもそうだな」
二人は声を落として笑った。

その様子を矢野は真っ直ぐに眺めていた。
その目にしっかりと焼き付けていた。

正が自殺だなんておかしいと思っていた。
それがこの瞬間、はっきりと分かった。

「・・・こいつらが・・・」
殺した。

そして、矢野は決めた。
絶対に許さないと。このまま悠々と生きることは許さない。
自分が、この手で罰を与えると。

無意識のうちに噛んでしまっていた唇から、血の味がした。