中学生に上がると、矢野は全国の中学生以下が応募するコンクールで大賞を取った。
その表彰式があるということで、辰郎に連れられて近くの神宮に向かった。

「あ。轟君だ」
そう辰郎が行った方向には、和服姿に身を包んだ白髪混じりの男がいた。

「尋。あれが轟芳忠だ。今の書道の世界を引っ張ってくれている男だよ」
「へぇ」

「お。松雪じゃないか」
気づいた轟が辰郎のほうへ歩いてきた。
「久しぶり」
「あぁ。元気だったか?」
「見ての通り」
「ハハハ。元気なようだ。・・・この坊主はお前の息子か?」
「そうだ。矢野尋。自慢の息子だ」
「そうか、今回の大賞はお前の息子だったのか」
そう言うと、矢野に合わせてしゃがみ込んだ。

「おめでとう」
「ありがとうございます」
一礼をして目を合わせる。
「流石、侑子さんの子供だな。美人な母親に似ている」

侑子は辰郎の妻で矢野の母親の名前である。
しかし、だからと言ってこの三人の関係は直結していない。
「しかし、父親には似てないな」
矢野の顔をマジマジと見ると、不意に舌打ちをした。
「目が姫山にそっくりだ・・・・」