「お久しぶりですね。矢野先生」
警察署に着くと、気味の悪い笑みで野田が迎えた。

「ええ。昨日ぶりです」
「三木さんはご一緒ではないんですね」
「安心しました?」
野田は肩をすくめた。

「それでは、先ほどの事故についてお伺いします。どうぞ、おかけください」
野田は自分のイスに座ると、隣にあるイスを矢野に差し出した。

「矢野さんは水沢が事故に遭った瞬間を目撃したんですね?」
「はい」
「水沢の携帯の通話記録から、事故に遭う数時間前と直前に、矢野さんの番号にかけていることが分かりました」

「はい。話してました」
「どういった事を話してたんですか?」
「僕の作品展の話や、教室の相談です。水沢先生とは同じ流派ですから」

「なるほど。・・・そのポケットから出ているビデオテープは?」
「昔あった映画のビデオです。水沢先生に会う前に三木君に借りてきた物です。・・・観ます?」
矢野からビデオテープを受け取った。
「どんな内容の映画なんですか?」
「ご老人と老犬のお話です。泣けますよ」
「あ、遠慮しときます」
ビデオテープを返した。

「・・・しかし、どうして水沢は赤信号の横断歩道を跳び出したんでしょうかね?」
「さぁ。僕にもさっぱり」
うつむき気味になる矢野をマジマジと見つめた。
やがて、諦めた野田から小さく舌打ちをする音が聞こえた。

「そういえば、十三年の事件について調べてみましたよ」
「そうなんですか」
「はい。けれど、調べるうちにおかしな事になったんですよ」
「おかしなこと?」
「はい。おかしいというのがですね。あの火事で死んだのは姫山正と、その妻と子供だと思っていたんですが・・・」
黙って答えを待つ矢野に野田は挑発するような笑みを向けた。

「姫山に家族は居ないんですよ」
「なるほど・・・それはおかしいですね」

「そうなんです。妻も子供も居ると思っていた男は本当は一人だった。・・・じゃあ、姫山正と一緒に死んでいた二人は一体誰なんでしょう?」