空が橙に染まり始めた。
月曜のこの時間は、帰宅時間と重なっていて、人が込み合っていた。

矢野のズボンのポケットの中にある携帯電話が振動した。
それを手に取ると、通話ボタンを押して右耳に当てた。

「着いたな」
水沢の声だった。
「どちらに居ますか?」
「キミから見て向かい側の交差点だ」

顔を上げると、確かに水沢が立っていた。
「今からそっちに行く。ちゃんと持って来たか?」

「・・・何をですか?」
矢野は何も持っていない左手を向こう側にいる水沢に分かるように上げた。
右手には携帯電話を持っている。
と、いうことは、矢野は携帯電話しか持っていないということだった。

「金はどうした?」
慌てた声を聞くと、口元に笑みが浮かんだ。

「必要の無いものは持たないようにしているんです」