その答えを待っていた水沢は黙って頷いた。
「だが、キミはどうやって矢野松雪の子供になったんだ?」
「僕は初めから矢野松雪の子供ですよ」
「どういうことだ?」

分かっていない水沢に、矢野は小さく笑った。
「戸籍上、僕はずっと矢野家の嫡男です。ただ、実際の父親は姫山正というだけです」
そう言われて、水沢の頭の中で整理が出来た。
「キミの母親の不倫相手だったってことか?」

「けれど、僕にとっては立派な父親だった」
水沢が初めて聞く、矢野の怒気を孕んだ声だった。

「覚えていますよね?あなたが父にやった事を」
「・・・何のことだ?」
視線を逸らす水沢を見て、矢野は鼻で笑った。
「別に認めなくてもいいですよ。ただ、あなたが父の家に爆弾を仕掛けて、父の作品を持ち出した事実は変わりませんから」

「・・・長江を殺したのはキミか?」
「それはあの刑事に聞いたことですか?」
水沢は黙って頷いた。
「十三年前のことを使ってまでそのことを聞きに来たということは、僕をあの刑事に逮捕させるおつもりですか?・・・十三年前の事実捏造をネタにされて」

「証拠があるのか?ないだろ!」
水沢の目の色が変わった。
「私の事より自身の心配をしたらどうだ?私がキミをあの刑事の所に連れて行けば、キミは即逮捕だ!」

「・・・それは、困りますね。捕まりたくないですから」
「そうだろう!」
水沢の表情に少し余裕が戻った。

「そこで、キミにチャンスをやろう」
「チャンス・・・?」
三本の指を矢野の目の前に立てた。

「三百万だ。キミなら簡単だろ?」
「それなら、あなたもすぐに手に入るじゃないですか?」
水沢は鼻で笑った。

「あるに越したことは無いさ。それに、キミに拒否権は無い」
時計を確認した。
「今日の夕方、駅前のスクランブル交差点に持って来い。もし来なかったら、すぐに野田に連絡をするからな。」

一方的に取り付けた水沢はそのまま教室を出て行った。


「・・・・」
矢野は携帯電話を取り出した。一人の教室にプッシュ音が響く。
数回のコール音と共に、通話が繋がった。

「あ。おはようございます、真里さん」