夢を見た。
小学五年生の矢野は走っていた。
とにかく早く家に帰りたかった。
一生懸命走って家に着くと、裏に回り、裏口の門を開いた。
その時だった。

大きな爆発音。そしてすごい勢いの熱風が矢野を襲った。
「熱っ!」
思わず目を瞑った矢野は、次に目に入った光景に唖然とした。
門の向こうが燃え上がる炎に包まれていた。

「父さん!母さん!兄ちゃん!」
慌てて炎の中に飛び込もうとする矢野だが、腕を掴まれてそれ以上前に進めなかった。
「放してっ!」

暴れるが、相手は意にも返さない。
「駄目だ。もう皆、死んじゃったよ」

その言葉は矢野の力を抜かせるのに充分だった。
地面に座り込んだ矢野は燃える家を眺めながら自分を止めた相手に聞いた。

「おじさん、誰?」
「私かい?轟っていってね。お父さんと同じ書道家だよ」
男に一瞬目を向けた。すると、男の顔が野田に変わった。
野田は口の端を上げて轟と名乗る男の声のまま口を開いた。

「こうなったのは尋君。君のせいだ」

笑っていた。