「あなたのパーティーで死んだんですよ!理由があるに決まっているじゃないですか!」
興奮気味になってくる野田とは反対に、顔色ひとつ変えずに矢野は答える。

「それは、僕が長江先生が亡くなった原因だと仰っているのですか?」
「そういうことですね」
「野田さん!」
真里が割って入った。

「いくらなんでも失礼です!帰りましょう」
「片山。失礼なんて気にしてたら刑事はやっていけないぞ」
片山の手を振り払うと、矢野に詰め寄った。

「長江が死んだのにはあなたが関わっているのではないですか?あなたが長江を追い込む原因を作ったとか。あなたの存在が長江には苦痛だったのかもしれませんね。いや、もしかしたらあなたが殺したのかも!」

ダンッ!と音が響いた。
それは矢野と野田の間に置かれたコップで、矢野の隣にいる三木が置いたものだと分かった。
中のコーヒーが半分以上こぼれた。

「これ飲んだらもう帰ってください」
発せられる三木の言葉からは明らかに怒気が込められていた。

「これ以上、先生を侮辱しないでください。さっき言ってましたよね?疑っているのではないと」
「刑事は疑ってなんぼの仕事ですので」
「刑事なら何でも言っていいっていうんですか?」
「それが事件の真相を知るためならね」

三木は鼻で笑った。
「なるほど、それがあなたの正義というわけですか」
「そうです」
「なら、世も末だな!」

掴みかかろうとする三木の腕を矢野が掴んだ。
「落ち着いてください」
「でも!」
「とにかく深呼吸してください。・・・ね?」

言われた通りに大きく息を吸うと、それを吐いた。
落ち着いた三木はゆっくりとその場に座った。

「・・・・すいません」
「謝らなくていいですよ」

そう言う矢野に今度は真里が頭を下げた。
「本当にすいません!こんなこと聞くつもりじゃなかったんです!」
「真里さんも謝らないでください」
真里の頭を上げさせる。

「力になれなくて申し訳ないのですが、今日のところはお引取りしていただいていいですか?」
「はい。すぐに帰ります!すいませんでした!」

真里は野田を無理やり立たせると、玄関まで引きずるように連れて行った。

「まぁ、また話を聞きに来ますよ」
靴を履きながらそういう野田に三木がきっぱりと「来ないでください」と言った。

「失礼しました」
「あ、ちょっと待ってください」
玄関を出て行こうとする二人。それを矢野が止めた。

「野田さん。ひとついいですか?」
「・・・なんでしょう?」

「十三年前、書道家が教室と共に炎上した事件をご存知ですか?」
「書道家が火を熾して自殺した事件ですか?」
「そうです。・・・あれと似てますね」
矢野は微笑んだ。

「あの事件も本当に自殺だったのでしょうか?」