しばらく二人は、無言で自分の注文したものを口にしていた。
パフェがそこをつき始めたとき、水沢が再び口を開いた。

「思ったんだが、キミの字は、キミの父であり師でもある矢野松雪の字と似てないな」
「似てないですか?」
「あぁ。普通、師の字をお手本にしたりするから、書風は似てしまうところがあるのだがな」

水沢は思い出すように空に字をなぞった。
「形はところ所々にているんだ。松雪は勢いに任せて書いている節があるが、翠扇君は一文字を丁寧に書いているのだろう。あと、大きな違いが雰囲気だ。二人の字は軸の雰囲気が違う」

矢野は感嘆した。
「流石、水沢会長です」
「そうか?」

水沢は嬉しそうに腹をさすった。
「なら、キミの字の元となったのは誰の影響なんだ?矢野翠扇の最初の先生が誰か、気になるな」
スプーンを手元で小さく振りながら、水沢は興味津々な様である。

そんな水沢に矢野は優しい口調で返した。
「僕の先生は、後にも先にも松雪先生だけですよ」
「そうか?」

「はい。・・・ただ、昔。僕がまだ小学校に上がる前だったころにある人に教えてもらったことがあるんです」
「ほう。何と言われたんだ?」

「字は嘘をつかない」