「じゃあ、送ってくよ。今日、車で来てるから。」




優しい笑顔に内心困って、視線を外す。





「…えっと、今日は歩いて帰ります。ほら、満月だし。気持ちよさげなんで。」





指を差したトコロにはぽっかりと丸い月。


空は黒というより濃紺で、世界は闇に包まれることなくほの明るい。



じゃあ、と言って歩き出そうとしたら、腕が掴まれた。





「小町ちゃん…もう俺の気持ち分かってるよね?」




言われて、曖昧に笑う。







日坂サンは優しい。




医者を目指してるとかで、とても勤勉、そしてマジメで、イマドキとっても紳士。



誰に対しても優しく礼儀正しいけれども、私には最も気を割いてくれている。




それが純然たる親切じゃなくて、恋愛って意味の好意だってのは、さすがに疎い私にだってなーんとなく分かってましたけれどもさ。




ココは曖昧にスルーさせて欲しかったよね。


同じ職場でギクシャクしたらキマズイじゃないのよ。