言葉を発する前に一口コーヒーを飲み込んだ。
舌に残る苦さがなんだか心地よい。

「ありがとう。
渡辺くんに色々気付かされることがたくさんあって…渡辺くんがいなかったらきっと勝也くんと付き合おうなんて考えにも至らなかったかもしれないから、本当に感謝してる。ありがとう。
こんなこと言うのは酷かもしれないけど、勝也くんが大学生になってからもよろしくね」

言いたいことを先に言われて、何を言えばいいのかわからなくなってしまったけど、変に気遣うほうが相手にとって失礼と思い、思ってることをそのまた言葉にした。

「そうですね。たしかに酷かも。
けど、言われなくてもそうするつもりです。
それに、千絵さんとも変わらずに仲良くさせてください」

情けなく笑う彼に少しだけ苦しくなったけど、それは言葉に出さないようにした。

「こちらこそ。改めてよろしくね。
類友っていうけど、ほんと勝也くんに負けずにしっかりしてるな〜。あたしが一番子供かも」

「うん、それはそうかも」

「ちょっと、そこは否定してよ!」

彼のチクッと刺さるジョークで、色々と帳消しになった気がして、気持ちが楽になった。

「ごめんなさい、冗談です。
本当に、心からお祝いしてるので、また改めてまた3人で飲みましょうね」

「あ、それさっき村上も言ってたからぜひまた4人で」

「いいですね。
村上さんの介抱役なら任せてください」

彼が笑いを含みながらまた皮肉を効かせた。
こうやって意地悪を言いながら、距離を詰めるのが彼は得意らしい。

「心強いです。
とにかく、今日はいろんなこと含めて渡辺くんにお礼を言いたかったの」

勢いよくカップに残ったコーヒーを飲んで、彼がニコッと笑った。

「十分に伝わりましたよ。こちらこそ、わざわざお時間作ってくれてありがとうございました。
おうちで秋本が待ってるんですよね?早めに帰ってあげてください」


同じ人へ想いを寄せる人からの言葉は、重みが違った。

「うん、ありがとう。
またゆっくり遊びにきてね」

あたしもカップに少しだけ残ったコーヒーを飲み、伝票を持ち席を立った。