Sales Contract


バッグからケータイを取出し、自宅の番号を押した。

呼び出し音が何回か鳴って、控えめな勝也くんの声がする。


「はい、岡崎です」

なんだかその一言がおかしくて吹き出してしまう。

お前は秋本だろ
と突っ込みたくなった。


「…千絵さん?」


「そう、いきなりごめんね。出てくれてよかった」


「すげぇ困ったんですけどー」

電話越しでも恥ずかしがっているのが分かる。

「ごめんごめん、考えてみたら勝也くんのケータイの番号知らなかったから。
それより、今から出てこれる?」


え…?
と戸惑った声をしたかと思うと、すぐ調子をかえて可愛らしく
大丈夫だよ
という返事が返ってきた。


「じゃあ6時半に昨日と同じ駅の改札ね。
戸締まりを忘れないように」


「りょーかい」


「それじゃ、また後で」


電話を切り、改札に定期を通した。