カートから本を書架に一冊一冊丁寧に戻していく。

細い指で、音もなく。

その動作一つ一つが、息を飲むように美しい。

彼の周りだけが、別の空気で覆われているよう。



ふと、目があった。



無意識に、本のすき間から手を伸ばしていた。

彼に向かって。



指と指が触れ合った瞬間。

体中を電流が走る。



無音の空間。



本棚の向こうから、彼が目を細めて微笑みかけた。

形の良い口元が、動きだけで言葉を伝える。



(ずっと君を待っていた。


――もう、離さないよ)