「喧嘩した相手が、事故に遭ったりするとか聞いたけれど」 その事?と、彼に頼みたい事の内容を尋ねる。 「それもある。けど、」 言いよどみ、犬飼君はまた茂みの方へ視線を向ける。 さっきまで揺れていた草はもう静まり返っていた。 そこに居た何かはもう逃げてしまったのだろう。 「兄貴の飼ってた犬は、きっともう死んでるんだ」 彼の視線は、まだ茂みへ向かっている。 「……でも、まだ居る気がする」 お兄さんの傍にではなく自分の傍に、と彼は言う。