「ママ、いつ帰ってくる?」

「…いつかな」



 ――…ううん、帰って来ないよ。



「瑠海、いい子にしてたよって言ってね!」

「そうだね」



 ――…帰って来ないんだ、瑠海。

 瑠海のママ、僕の母親は、もう帰って来ないんだよ。



 一喜一憂、まさしくその言葉が似合いの瑠海は今日は割りと機嫌が良い方で、昨晩の電話の件のときよりとても楽しそうだった。

 母親の笑顔を思いだし、その消えかかった温もりを記憶の中で手繰りよせ、生きる糧にして。

 僕には知り得ない無垢な愛情を持ち、母親を待ち続けているのだろう。



 二度と逢えぬ、安藤夏海を――。



「瑠海。明日、お婆ちゃんに会いに行こうか」



 瑠海の体を引き寄せるようバスタブに浸かると、僕のあぐらに座る瑠海を後ろから覗き見て言う。

 彼女はくるりと振り返り、丸い瞳をきらきらと輝かせて頷いた。



 瑠海を祖母に預けて真依子に連絡を取り、彼女に会おう――。