――母親なら、何と教えるだろう。



 思い返しても、僕が女性の体を理解したのはごく自然な成り行きで、母親から『女性はこうなのよ』と教わった記憶はない。

 けれど、母親なら、瑠海に何と教えるだろう。

 彼女の疑問や好奇心を、僕みたいにあしらうことなく優しく答えてあげるだろうか。



 母親がこの世を去ってから、僕は身をもって知った。

 子供には、親が必要だ。

 子供を殺す親には親という資格などないけれど、それでも、その子供にも親は必要だったはずだ。

 例え犯罪者でも、自ら命を落としても、子供を殺しても、縁が切れても、血を辿れば必ず繋がっている唯一無二の存在が“親”なのだから。



 子供を残し、理由を全て墓場へ持っていった人間でも、唯一無二の母親なのだ――僕と、そして瑠海の。

 あの日からこうして毎日のように彼女のことを考えていることが、僕の精一杯の親孝行だった。



「ママ、お仕事頑張ってるかなぁ?」



 綺麗になった瑠海をバスタブに入れて髪を流す僕に、瑠海が問う。

 響いた声が何だか虚しくて、儚くて。

 子供の甲高い声がシャワーの音にかき消されるはずもなく、僕は髪をかきあげてジョウロで遊ぶ瑠海を一瞥した。



「…きっと頑張ってるよ」



 嘘。

 僕は、嘘つきだ。

 浴室に無駄に響く自分の声がクリーム色の壁に反響し、容赦なく僕の胸をえぐった。