「…ママ、携帯持って行ってないんだ。だから電話は出来ないよ」



 瑠海を見ず、きゅっと蛇口の水をとめた。

 もう、見たくない。

 その小さな体から体力を奪うほどの泣き方をする瑠海の姿など、僕は見たくない。

 教育番組の陽気な音楽が響き、僕は小さく唇の端を噛んでちらりと彼女を見おろした。



 瑠海は、泣いてはいなかった。

 ただ拗ねた様子で少し唇を尖らせて、僕をじーっと睨んでいる。



「んー?瑠海、怒ってるの?」

「怒ってない!」

「ほら、怒ってるよ?ここ、眉間に皺寄ってるもん」

「寄せてるだけ!」



 薄く笑いながら瑠海の眉間を人差し指でつつくと、彼女はぷいっと横を向いた。

 小さく笑いながら豚肉の包装をめくっていれば、瑠海は可愛らしい目一杯の力で僕の太ももをグーパンチしてぱたぱたとソファへ戻って行った。



 その姿を目で追っていると視線が合って、だけど瑠海は僕にあっかんべぇと赤い舌を見せる。



(…我慢させて、ごめんね)



 瑠海の心の中は、今どんな想いで埋まってるだろう。

 何もしてあげられない不甲斐なさを噛みしめて、祖母に教わったレシピでカレーの調理に取りかかった。