「こんにちは」



 瑠海の目線まで腰を折り曲げ、真依子は美しく笑って見せる。

 少し気恥ずかしそうに僕を一瞥した瑠海だったけれど、真依子に視線を戻してぺこりとお辞儀をした。



「ふふ、偉いのね。お名前は?」

「安藤瑠海」

「そう、瑠海ちゃん。あたしはお兄ちゃんのお友達の、二条真依子って言うのよ」



 真依子は、躊躇うことなく名前を口にした。

 反射的に眉を顰めてしまった僕は、自分が思っているより何倍も彼女を警戒していたことを思い知る。



 母親と直接関係があったのならば、きっと真依子は本名や素性を僕に話したがらないだろうと考えていた。

 だから、見つけたときは真っ先に本名を聞いてみようと企んでいたのだけれど、見事に読みは外れたようだ。

 お陰で、降り出しに戻ってしまった。



「真依子……僕に何か用があったの」



 瑠海の洋服にプリントされた子供向けアニメについて話に花を咲かせるふたりの間を裂くよう、僕は言い放つ。

 瑠海は僕の感情の機微に気がついたのか、驚いたように繋いだ手にきゅっと力を入れた。