「あ、おじちゃんだ!」



 風雅にドーナツを食べさせていた瑠海が道の向こうを見遣り、ぱっと立ちあがった。

 彼女の言葉に、黒のスラックスのポケットに入れていた片手を出す。



 向かいに立っていた真依子が振り返り、僕もそちらへ目を遣ると、マンションの下に集まる僕たちを訝しげに見ながら雄司さんがこちらへ近づいて来た。



「なんだ、四人揃って」

「結婚式から帰って来たの!」



 仕事帰りなのか、グレイのスーツを着た雄司さんは瑠海の言葉に「そうか」と優しく笑う。

 すると瑠海が突然、雄司さんの持つ黒のビジネスバッグを奪うようにして両腕に抱えた。

 大人三人が目を点にして彼女を見おろすと、瑠海は楽しそうに言う。



「お兄が帰って来たとき、真依ちゃんがいつもお兄のリュックを持つから!」

「…ふふ、あたしの真似?」

「真依ちゃんの真似!」



 子どもは何でも見ているんだなと少し照れ臭くなったのを悟られぬよう、僕は風雅を抱きあげて口を挟んだ。



「…家、入りましょうか」



 砂糖と油で手を汚しながらドーナツを食べた風雅は、真依子に口周りをハンドタオルで拭かれて暴れている。

 一足先にマンションの方へと歩きはじめた雄司さんと瑠海を追い、オートロックの前で待っていたふたりと共に僕たちはエントランスを抜けた。