午後六時を過ぎた頃。
ビーフシチューとシーザーサラダ、斜めにカットされたソフトフランスパンが四人掛けのテーブルに並んだ。
「瑠海、真依ちゃんのとーなり!」
料理を並べ終えた真依子が祖母に促されて席に就くと、すかさず瑠海が彼女の隣をキープした。
真依子は快く引いたイスに瑠海を招き、祖母から預かったらしい前掛けを瑠海につける。
僕はそんなふたりを見ながら向かいのイスに腰掛けて、いい香りで食欲を刺激するビーフシチューを何となく見つめた。
「ばぁばー!早くー!」
間もなく、待ちきれない瑠海の声に「はいはい」と返事した祖母が人数分のサラダの取り皿を手に僕の隣に座る。
正午は何だか少し落ち着かずにフーガに逃げた僕だったけれど、食事会は自然に幕を開けて和やかに始まった。
もともと無口なのもあってか、繰り広げられるのは僕を除いた三人の他愛もない話。
『お仕事は楽しい?』
ふと祖母がなんの気なしに訊ねた問いに、真依子は頷いて答えた。
『趣味を仕事に出来ましたし、女性と関わるのはいい刺激になって楽しいです』
何の変哲もない返事だったけれど、仕事に対する姿勢を聞いたのは初めてだったし、何より仕事の話をするときの眩しい笑顔が目に焼き付いた。
