「真依子のしようとしたこと、そしてしたことは決して許されるものではない。しかし…これからも関わってくれる気持ちがあるのなら、あんな娘だが、どうか、よろしく頼む」
彼女を見つめる僕に、彼は生真面目に言葉を繋げて軽く頭をさげる。
最後の一行に酷く驚愕した僕は、はっと隣に視線を戻して思わず首を横に振った。
「…そんな。僕の方がたくさん彼女に助けられてますから」
頭をあげて下さいと付け足すと、雄司さんは一拍置いて静かに頭をあげた。
穏やかな彼に不似合いの悲しげな色を宿した瞳を見て、僕は不器用に微笑む。
果たして、誰が想像しただろう。
真依子の父親と僕が、こうして気持ちを伝え合う日が来るだなんて。
きっと、神様でさえ予想もしていなかったんじゃないかと思う。
そこに、長い間母親と向き合っていた彼女が戻って来た。
僕たちの間に流れる微妙な空気感を察してか、眉を深く顰める真依子。
「…何？パパ、そらに何か言ったんじゃないの？」
「え、いや…」
腕を叩かれてあからさまに動揺する嘘が下手な雄司さんに呆れつつ、僕はさらりと助け舟を出した。
「違う、真依子。男同士の話」
「男同士？その方が怪しいわ」
「…怪しくなんかないよ。ただの、世間話」
ますます意味がわからないと言うように首を傾げる彼女は、視線を逸らして知らばくれる雄司さんと目を合わせようとする。
彼女が関わる異性の中で僕はきっと一番になれないなと確信したのはこのときで、だけど自然と幸せな気分だった。
