「真依子の、好きにしていいよ」



 僕にはだめだと言う理由もなければ、いいよと促す権利もない気がした。

 彼女の意思で顔を合わせたいのなら、止めも勧めもしない。



 少し唇で笑って見せれば、真依子は浅く頷いて母親の元へ向かった。

 レースのフレアスカートに白のリボンブラウス姿の彼女の後ろ姿を見守っていると、入れ替わるように雄司さんが隣に立ち、真依子がしゃがみ込んで手を合わせたとき彼がふと口を開く。



「…あの子の男友達、いや…親しい男性に会ったのは君が初めてなんだ」



 静かに聞こえた低い声にちらりと隣を仰ぎ見ると、雄司さんも僕を見おろして切なげに笑った。

 別に彼女の男友達に興味はないし、考えたこともなかったけれど、何だか少し意外だった。



 そんな僕の思考を見抜いてか、雄司さんは続ける。



「昔から一切恋人も紹介しない奴で、良太……兄が死んだときは、少しの間は男という生き物に興味をなくしたみたいでな。単純に、大切な男性(ひと)が自分の前から姿を消すのが怖くなったんだろうな…」



 ここへ来て明かされた真依子の異性に対しての感情は、激しく僕の心を揺らした。

 関わりを避けていた男性の僕に自ら関わると決めたとき、果たして彼女はどんな気持ちだったのだろう。

 きっと、大きな葛藤があったはずだ。



 未だに手を合わせている真依子の姿に目を向け、その華奢な背中に背負われた数々の辛苦を想像すると、何とも彼女が痛々しく見えた。