僕は幸せな溜め息を吐くと、テラスから部屋に戻って小さなワンピースを畳んだ。



 今日、我が家に真依子が来る。



 それも、ただ遊びに来る訳ではなく、祖母を交えて食事をするため。

 経緯は簡単で、真依子が久しぶりにお婆様に会いたいと言ったからだ。

 もちろん最初は色々と気まずくなるのが嫌で断ったのだけれど、しつこい押しに負けてしまった。

 というか、わかったよと言わない限り延々と会話が続きそうな気がした。



 だからあの通り、瑠海は朝からえらくご機嫌だ。

 何せ久しぶりの真依子なのだ、彼女のテンションが上昇しない方がおかしな話。



(………落ち着かない…)



 特別な何かがあるわけでもないのに、妙に落ち着かないのは僕も同じだった。

 祖母と真依子は顔見知りだし、別に気を遣うような関係ではないのに、中立の立場である僕はふたりに挟まれているような気がしてそわそわしていた。



 ベッドに腰を沈めていた僕は、思い立ったようにピアノへと歩み寄り、そのイスに腰掛ける。

 そして流れ作業のように蓋を開けて深紅の布を外し、その眩しい鍵盤を晒した。



(なかなか構ってあげられなかったね、最近)



 少し久しぶりに対面したため、僕は鍵盤を優しく撫でて心の中で謝った。

 拗ねているのか、はたまた大らかに受け止めてくれたかはわからないけれど、心をひとつにする方法はこれしかなかった。