「…そらくんの、子か?」

「そうよ」



 驚きを残しつつ雄司さんが訊ねると、真依子は僕を一瞥して頷く。

 すると雄司さんの視線は真依子から僕へと移り、自然と身構えた。



「…そうか」



 けれど、彼は何かを悟ってか悟らずか、その一言を僕を見つめて言ったあと、特に何も言おうとはしなかった。

 きっと、僕たちの複雑な出会い方を想像したのだろう。

 真依子は母親を殺すつもりだったと言っていたのに子どもが出来る行為をした、その矛盾は大人ならば必ず気づくはずだ。


 だから僕も真依子も敢えて取り繕おうとはせず、その話をこれ以上広げることもしなかった。



「…じゃあ、僕はこれで」



 何となく空気を読み、僕は真依子を雄司さんの隣へ誘導してそう言った。

 雄司さんは僕を見あげて何か言いたげな表情をしていたけれど、真依子が口を開いたことでその心意は聞けず。



「ありがとう。父を、パパを救ってくれて」



 感謝されるようなことをした覚えは一切なく、僕は表情を変えずにこう返した。



「…感謝なら母親に。僕は彼女の気持ちを届けただけだから」



 照れ隠しなどではなく、本当にそう思う。

 遺書がなかったら、母親の想いを知らぬまま雄司さんは彼女の後を追っていたかもしれないのだ。



 呆れたように小さく笑う真依子と、口は開かずとも視線で感謝を伝える雄司さんに頭を下げて、僕は屋上をあとにした。