首を吊ろうとする姿を見つけた瞬間、本当にその行為を止めることが出来ただろうか。

 今となっては到底想像も出来ないけれど、雄司さんを母親の二の舞にせずに済み、本当によかった。



「…ありがとう、そら」



 まだ衰弱している雄司さんをベンチに座らせて僕の元へ来た真依子は、そう言って手の平に乗せた針金を僕に見せた。



「これで南京錠を開けたみたい。…まさか父が死のうとするなんて、考えてもみなかったわ…」



 約五センチほどの針金を見つめて言う彼女の表情が痛々しくて、僕は奪った針金を複雑に折り曲げてフェンスの向こうに投げ捨てた。

 青空とマッチしない銀色は、誰かの死に加担することなくその一生を終えた。



 一瞬驚いたように瞠目した真依子だったけれど、すぐに美しい笑顔を浮かべて言う。



「…そら。あたし、あなたと出会えて本当によかったわ。…あたしがこんなこと言える立場じゃないのは十分にわかってる。でも、本当に、そう思うの」



 整った眉を少し寄せて呟いた、彼女の真っ直ぐな想い。

 だけどまだ同じ気持ちを持てていない僕も確かに居て、だから僕は何も言わずに小さく頷いて見せた。



 それを真依子がどう受け取ったかはわからないけれど、どう伝わっても支障はない。

 これから共に生きていくと勝手に決意したのだ、この想いに偽りがなくなって、芽生えた想いを口にして伝えられる日が来るまで、彼女とは平凡に日々を重ねていきたいと思っている。