「…すまないな…そらくん……」
本当は沢山僕に言いたいことがあったはずなのに、雄司さんは最初に僕に謝罪の言葉を伝えた。
表情の見えない彼の謝罪に、僕は迷った挙句フェンスの隙間に手を入れて逞しいその腕に触れる。
「…戻って下さい。お願いします」
気持ちが少しでも伝わればと彼に触れた手に神経を集中させ、僕は言う。
雄司さんは片手で頭を抱えたまま、数回頷いてくれた。
スリッパを履いたままの彼がフェンスを乗り越えたわけじゃないと気づいていた僕は、密かに確認していたフェンスの端へ目を遣る。
恐らく管理用の出入り口だろう、フェンスそのものの一部が扉になっている場所を見てから真依子へ振り返ると、彼女は小さく頷いてそこへ近づいた。
僕が肩から手を離すと、雄司さんは弱々しく頭をあげ、扉を開いた彼女の姿に驚いた様子で僕を見る。
「…待ってますよ、早く行ってあげて下さい」
落ち着いたトーンで促すと、彼は困ったように薄く笑い、フェンスを掴みながら真依子の元へと向かう。
僕は落ちた便箋を拾いあげてその場で様子を見守っていると、雄司さんが無事にフェンス内に入った途端、彼女は彼の腕を叩いてその力ない体に抱きついた。
ただ単純に、綺麗な景色だと思った。
僕もあの日、真依子を抱かずにいたら、こうして母親の自殺を食い止めてその小さな体を抱き締められただろうか。
死なないでと感情を顕にして、恥も外聞も捨てて抱き締めることが出来ただろうか。
