もう、いくら悔やんだって時は巻き戻せないけれど。
母親と共通の友人に支えられてタクシーへ乗りこんだ葉月さんを案じながら、僕はふと鉛色に染まる頭上を仰ぎ見た。
一向に涙を流そうとはしない空。思い切りのなさは、まるで僕のようだった。
(…君は泣けばいいのに)
皮肉じみた言葉を投げかけたけれど、それは虚しく僕へつき返される。
でも、僕は泣けない。
二年前のあの日、僕は生涯どんなことがあっても涙を流さないと心に決めた。
例え家族が死んだとしても、だ。
「そら」
光を失った冷たい瞳に空を映していると、ふと後ろから声をかけられた。
首だけでそちらへ振り返れば、ふわりと表情を緩める祖母の姿。
「そらのお友達だったよ」
「え?」
当たり前のように口にされた“お友達”という言葉。
いや、有り得ない。僕に友人と呼べる人間などいないのだから。
怪訝そうに眉根を寄せた僕に祖母が軽く小首を傾げた途端、僕は“ある人物”を思いだしてはっとした。
