その仕草でふと今の状況を思い出した僕は、ドアを開けてくれている後藤さんを一瞥して個室へ入る。

 そのあと彼も僕へ続き、促されるがまま真依子の隣へ腰をおろした。



「…驚かせたみたいね」



 ローテーブルを挟んだ向かいに後藤さんが座ると同時、ぼそっと真依子が言う。

 特に何も答えずにちらりと横目に彼女を見るけれど、真依子は僕を見てはいなかった。



 美しいカーブを描いた長い睫毛が目許に薄く影を作る、俯いた横顔。

 何度彼女と顔を合わせても慣れないのは、その美貌ぐらいだ。



「…どちらのお話からお伺い致しましょう?」



 後藤さんの言葉に彼に視線を移すと、僕は真依子の了承を得ずに答えた。



「僕からで。彼女の話は、多分長くなるんで」



 真依子が何を打ち明けるつもりかは見当もつかないけれど、長くなるんじゃないかということは何となく直感した。

 彼女が浮かない顔をしているのは珍しいことだし、きっと重要な何かを僕らに隠しているのだろう。



 僕の言葉を受けて真依子を見た後藤さんに小さく頷いたその動作が、彼女の葛藤を物語っている。

 僕が先に話すことを些か心配してくれているのか、後藤さんが不安そうに眉根を寄せた。