「ありがと。困ってたんだ」
「いいんだよ。…それより、大丈夫かい?」
僕の無愛想なお礼にも、祖母は柔らかく微笑んで僕の背中を優しく撫でた。
母親の自分より先に逝った娘を、祖母はどう受けとめたのだろう。
僕に涙を見せまいと目を赤くするだけで決して泣きはしなかった祖母は、何を思い、僕に“大丈夫かい”と訊ねたのだろう。
「…ん、平気。それより母親、親不孝者でごめんね」
「はは、そうだね…子供を残して逝くなんて、馬鹿な娘だよ…ほんとに」
祖母は僕の背中から徐に手を離し、小さく笑んだ。
控えめな笑い方が母親と重なり、胸が疼く。もっとちゃんと向きあっておくべきだった、と。
「尾崎様、お焼香をしたいという方がいらしてまして……お帰りになって頂けないのですが、知り合いの方かご確認頂けますか?」
「…はい。そら、少し待ってて」
女性スタッフに声をかけられた祖母は、僕の腕を軽く叩いて裏口の方へ歩いていった。
こうして、向こうから母親に会いにきてくれる人と繋がりを持っていた彼女を失ったのは僕の最大の汚点かもしれない。
愛されていた人間の息子だから、ふらふらしていても口を出す者がいなかったに違いない。
